04


遊士の私室と思われる場所に連れていかれ、座布団を出される。

「あ、俺がやりますよ」

そうか?と言って遊士様は座布団を俺に渡すと、今度は逆の押し入れを開けて頭を突っ込んだ。

「ah…何してんだ?」

それにはさすがの政也様も気になったのか座布団に座り、言葉を投げた。

「ん?たしかこの辺にしまったはず何だけど…、おっ!あったあった!」

そう言って押し入れから取り出したもの、それは綺麗な色をした酒瓶だった。

「この前、陽菜…長曾我部が持って来てくれてさ。貰ったんだ」

「…何故その様な場所に?」

一緒に小綺麗な箱が出てきて、その中から取り出した盃を遊士は政也に渡す。

盃を受け取った政也は遊士と以心伝心しているのか政也がニヤリと答えた。

「そりゃあれだろ。口煩いお目付け役に見つからねぇようにだ、な?」

政也の視線に遊士はそう言うこと、と頷いた。

俺は遊士様から差し出された盃を丁寧に断り、酒瓶を手にする。

それぞれの盃に酒を注ぐと、二人は盃の端を合わせて乾杯をした。

「何に…?」

思わず突っ込んだ俺に二人は当然という顔をする。

そして声を揃えて同じ事を口にした。

「「この出会いに」」

…なんか、今ちょっとだけうっかり感動しちゃったよ俺。







ちびちびと酒を飲みながら、政也様と遊士様の会話は弾む。

政也様の隣に座った俺は、二人の盃が空になれば酒瓶を傾けて酒を注いだ。

「Thanks.」

「いえ……」

俺って忍んでないけど、ましてや当主達に酌なんかしちゃってるけど…忍だよな?

間違ってもどこぞの熱血漢の忍じゃねぇからな!

酒瓶片手に百面相を始めた俺の事を二人が酒の摘まみにしていたことに、迂闊にも俺は気付かなかった。

「政也のとこの忍って皆あぁなのか?面白くていいけど」

「慎だけだ。あれでも結構優秀なんだぜ」

だって、俺は今忍としての尊厳とか誇りとかプライド、存在意義がかかって…。プライドと誇りは同じ意味だったっけか?

「おい」

コツンと盃で額を小突かれ、俺はハッと思考の海から浮上した。

「おかわりですね。今注ぎます」

「ちげぇよ。何か消えかけてんだけど…」

え!?と視線を上げた瞬間、俺の額を小突いた盃がころりと畳の上を転がる。

よくよく見れば酒瓶を掴もうとした俺の右手も透けていて、試しに酒瓶を掴もうとしたらすかっと空を切った。

「…本当だ」

「政也?慎?お前ら身体が…」

遊士様は驚いた顔して俺達を見つめる。

すると政也様はあ〜、と声を漏らし消えかけている右手で髪をガシガシと掻いた。

「もしかしてtime limitか…」

「みたいです」

どこか納得したような政也様に俺は頷いた。

「time limit?」

俺達の会話を聞いた遊士様は繰り返すように呟く。

「はい。どうやらお別れのようです」

それに俺が神妙な声で告げると遊士様は意外にもからりと笑った。

「そうか。なら土産にこの酒一式持ってけ」

ぐぃと胸に酒瓶と盃一式押し付けられる。

「いや…でも…」

未来の物を持って帰っても平気なのか?

俺の不安をよそに政也様が横から消えかけた手を出し、どうやってかその手で酒瓶諸々を受け取った。

「あ…」

「ありがたくもらうぜ。Thank you遊士」

「You're welcome」(どういたしまして)

すぅっと身体全体が色をなくし、消える直前。

そういえば言っておかなければならない事があったと思い出し、最後に俺は忍らしく膝を付き遊士様に向かい頭を垂れた。

「遊士様。どうぞその身、御自愛下さい」

自ら一人になり、忍を誘きだそう等とせぬように。

「ah-、心に留めとく」

俺の言葉に罰の悪そうな顔をして頷いた遊士様。

「では、御前失礼」

「See you again、遊士」

そう言って二人は遊士の前から煙のように姿を消した。

「あぁ、…またな、政也、慎」

遊士は温もりの残る座布団を見つめ、ふと笑みを溢した。

そしてそのすぐ後、腹心の声が障子越しにかけられる。

「遊士様、客人が御見えですが…」

「OK.すぐ行く」

座布団をそのままに遊士は新たに訪れた客人に会う為、自室を後にした。







バサバサバサ、ドスン!

「――ぅっ!?」

「いってぇ…」

政也は上体を起こし、軽く頭を左右に振ると周囲を確認するよう視線を巡らす。

「帰って来れたのか?」

「そ、その前に退いて下さい政也様…」

「あ、わりぃ」

政也様に怪我がないのはなによりだが、俺は打ち付けた腰が痛くて一人腰を擦った。

「ふぅ…」

ゆっくりと立ち上がり、政也様の隣に並んだ俺は、周囲を見渡してまた森の中かと不安定な術を少し恨めしく思う。

どうせなら城の中にして欲しいものだ。

「慎、お前また失敗したな」

「は?」

ある一点を見つめて、真剣な表情とは裏腹に愉しげな口調で言った政也様に俺は首を傾げる。

「見ろよあそこ」

指差された先を見やれば…

「あ。……どうやらそうみたいですね」

でも、

「政也様が来たがっていた所じゃないですか。良かったですね」

「おい、現実を見ろ慎。これでも良かったってお前は言うのか」

一応、相手に気付かれぬよう途中から二人は気配を消し、小声で話す。

「そう言う政也様こそ、顔が笑ってらっしゃいますよ」

「しょうがねぇ。行くぞ慎」

「はぁ……」

近付く俺達に気付いた相手は、手に槍を握り締め声も高らかに口を開く。

「何奴!ここを武田の領地と知っての、…ん…?…政宗殿?」

どうやらまだ俺達は帰れそうになかった。



fin...


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